AIの衝撃 人工知能は人類の敵か

AIの衝撃 人工知能は人類の敵か小林 雅一 (著)。
成毛さんの「AI時代の人生戦略」でお勧めの本として紹介されていたので買ってみたのが本書です。なかなか読み進まなかったのですが、コロナウイルスの影響でおうち時間が増えたのでこれをきっかけに一気に読み終えました。
成毛さんもホリエモンも広範囲の知識の豊富さにただただ驚くばかりですが、本書の著者の小林雅一さんもすごいですね。あまりにも情報量が多いので、ここでは本書の一部の内容に触れていますので、興味のある方はぜひ手に取って頂きたいと思います。
仮想アシスタントの話の流れから SITE MACHINE が提供する「マシン・ビジョン」技術が紹介されています。これは機械学習と組み合わせて主に製造ラインで活躍しているようですが、人手に頼っていた検査作業をAIで自動化できるという観点では応用範囲はとても広そうです。電力業界のスマート・グリッド機械学習の良い例です。また、deep learning音声認識力を向上させたことにより機械翻訳の精度が向上し、Skypeにこの機械翻訳機能が実装されました。それにより英語とスペイン語の間で自動的に同時通訳ができるようになりましたね。対応言語は拡大中です。語学の勉強は大切ですが、世界中のあらゆる言語の方とコミュニケーションができるようになるのは素晴らしいことですね。
深層学習、強化学習Google に買収された DeepMind、ディープニューラルネット(DNN)、最新の AI を搭載した自律的兵器など次から次へと色々な事柄が紹介されています。また、よく話題になるAIが雇用崩壊を引き起こし、あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」も紹介されています。*1
Deep Learning の医学分野、特に遺伝子解析への応用、それに伴うプライバシーの問題。従業員の仕事ぶりを監視するツール。ビッグデータとしてなら問題ないが、個々の従業員と紐づける場合は要注意です。必ずしも問題があるケースばかりではなく、コールセンターやレストランなどの具体例が紹介されています。
線形回帰分析、ロジスティック回帰分析などで一般にAIが使うコスト関数、コスト関数を最小化する計算こそが機械学習がやっていること。懐かしい話としては、通産省が1982年に第5世代コンピュータ開発プロジェクト、ICOT などのお話も出てきます。当時のエキスパートシステムやルールベースのAIなど。個人的にはちょっと感慨深いものがあります。
ベイズ確率 P(B|A)=\frac{P(A|B)}{P(A)}P(B)をはじめとする確率・統計型のAIが頭角を現してきたのは WWW が寄与していたし、IBM製のスパコン「ディープブルー」、ワトソン、Siri などへとつながっていきました。車の自動運転技術に関してもかなり解説されており、そこで使われている AI では現在地確認は「モンテカルロローカライゼーション」、周囲の移動体の把握は「カルマン・フィルター」という技術が使われているそうです。
ニューラルネットにブレークスルーをもたらしたのはスパコンGPU の進化が大きいとか。AI の長い歴史と幾度もの挫折を経て、ルールベースの弱い AI から人間の脳を趣味レートする強いAIへと発展し始めています。スパイキング ニューラルネットやそれを実現したニューロモーフィック チップが脳を再現する究極の AI を実現してくれるのかもと言及されています。昨今 AI がバズワードのようになってきており、中にはとても AI とは呼べないようなものまでありますが、いよいよ真の AI がやってくる時代になってきたことを本書を通じて実感できます。
第3章では、ロボットについて解説されています。さまざまなロボット技術と Google が買収ロボットメーカーの多彩さに驚かされます。産業用ロボットは日本が強いが次世代ロボットは Google をはじめとする US が強いようです。スマホ音声認識は単なる序章で、自動運転なども含め、広義のロボット技術が今後ますます注目されることになるでしょうし、そのときに Google が圧勝することにならないように日本も頑張りたいところですね。
将棋ソフトのゲーム木の探索能力と局面の評価関数の説明を読んでいると Prolog, ESP, KL1 といった言語でプログラミングしていた時のことを思い出した。当時のコンピューティングパワーは今思うと信じられないくらい遅かったんですね。
インダストリー4.0 や SPARC の話題から人と機械の新たな関係を模索するトピックへと移り、AI が曲を分析し、ヒットソング・サイエンス(HSS)Norah JonesCome Away with Me というアルバムを分析。14曲中8曲がひっとすると予測したとか。このアルバムは1000万枚を超える大ヒットになったので見事的中したのですが、外れも多いらしいです。AI が作曲した曲が人間が作った曲より評価が高かったという話を聞くと人間の創造性はコンピュータに叶わないのかと心配になってきますが、一部においては確かにそういう事例はあるようですが、まだ人間の創造性の方が勝っています。2人の偉大な人の言葉を引用させていただきます。

創造性というのは物事を結びつけること(コネクション)にすぎない
(スティーブ ジョブス)

創造性とは一見異なる領域に属すると見られる複数の事柄を、一つに結び付ける能力を持った人から生まれる
(アイザック アシモフ)

人間を遥かに凌ぐ知能を備えたAIが登場した場合、いったいどうなるのでしょうか。著者は、知能が人間に最後に残された砦ではない。それを上回る「何物か」を私たち人間は持っているのです、と締めくくっています。
AIとひとくちにいっても、本当にこれだけ多くの種類の技術が今までそして現在存在しているのかを一気に学ぶことができるのが本書ではないでしょうか。これにより、私自身も何かヒントをもらえたような気がしますが、それが何なのかはまだわかっていません。