アップル、グーグル、マイクロソフト

アップル、グーグル、マイクロソフト

アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ」(岡嶋裕史 著)。
Apple, Google, Microsoft の3つの U.S. 企業、というよりもむしろグローバル企業をそのままタイトルにした新書。バズワードとも受け取れるクラウドをテーマにした内容であるにも関わらず amazon が外れているのは IaaS、Salesforce.com が外れているのは SaaS だからで、本書の主眼は PaaS です。
少し前データセンターの所在地とその国の法の適用について論議があったが、そこに固執して日本的なデータセンターに落ち着いてしまうとクラウドの利点のスケールメリットが2桁落ちる。「ハードウェア軽視思想」についても日本企業からは出にくい発想で、Google のデータセンターのコンテナは雨ざらしで驚くことに空調設備すら備えていないらしいです。
Google App Engineクラウド上でソフトウエアを実行させる仕組み、Windows Azure はオンプレミスの代表格 Windows の派生品。Google が上から、Microsoft が下から覇権を狙っているが、ことクラウドとなると Google の強さは現時点抜きんでている。どちらがいいとか悪いとかではなく、それぞれの得意な分野の強みを生かした戦略はとても頷けるものです。AppleiTunes は一見 SaaS かと思いきや、流通や課金など他の2社があまり強くない部分を着々としかもちゃっかりと握ろうとしているところが IaaS 的ではある。
著者が書いているように、パラダイムシフトが起こったからと言ってユートピアが形成されるわけではなく、クラウドという新たな戦場に移っただけなのでしょう。
クラウドとオンプレミスの関係を銀行預金とタンス預金に例えたのは IT 業界に明るくない人にはとてもわかり易い説明ですね。Microsoft がモバイル市場で苦戦していることについて、こんなことが書かれている。

身も蓋もない言い方をすれば、iPod の後追いで投入した Zune も、スマートフォン向けの OS として投入した Windows Mobile *1も、どうにもデザインがオヤジくさいのだ。米国ではマイクロソフトは紛うことなきオヤジ企業なので、これは致し方ないかもしれないが、(中略) 携帯端末を作るときに重要な機能の絞り込みが苦手である。

Google の特異さは、クラウドなどどうでもいいと思っている点に集約できるそうです。彼らはハードウェアにも、ソフトウェアにもこだわっていなく、Google が欲情するのは、情報に対してのみであるとのこと。クラウド上に何かをというよりも発想の出発点そのものがクラウドのように思える。ただ、情報を集約とか掌握とかいう表現を見るたびに、何か空恐ろしいものが世の中を支配するのでないかという寒気がするのは私が旧世代の人間なのかも知れません。Chrome に関してもいわゆる Web サイトのブラウジングにはまったく興味がなくて、ブラウザがクラウドボトルネックにならないようにプラットフォームとしてのブラウザをおさえたかったのも非常に頷けます。
一方 Apple については iTunes, App Store に着眼しています。ここで課金システムをおさえることが出来ればその意味はとても大きいでしょうね。いいか悪いかは別として、通常は課金はブラウザ上で行いますから、それ以外の方法で成功した企業は殆どいないと思います。App Store の登場意義はとても大きかったのではないかと思います。それまでももちろんアプリのオンライン販売はできたけど、小さな会社や個人のディベロッパーにとっては、たとえ魅力的なアプリを開発したとしても限られた予算でマーケティング、セールスするのは極めて困難でした。それを可能にしたのが App StoreApple のプラットフォームで動作するアプリに限定されるものの、他社が必死に追随するのも納得できます。
電子書籍の分野はあまり明るくないので、その分野に対する洞察は勉強になりました。ここでも Google, Apple, Amazon のそれぞれの得意分野からの攻め方が興味深いです。
最後にクラウドで出遅れた日本企業についても触れられています。
クラウドは大きさが正義であり、コストが小さい、スケールアウトの効率、ソフトウェアの種類の多さもクラウドが大きければとの前提がつく。ここに立ち向かう日本企業が果たして出てくるのか。日本企業は頑張っているけど、腐心するのはルールが与えられたときに、その枠内で最高を目指すことであり、ルールを作る、はたまたルールを壊すといったことにはからっきし弱いというのがどうやら現状のようです。クラウドの雄 Google はルールを書き換え続けていくのか、それは私にはわかりません。本書はこんな一文で締めくくられています。

ジョブスの言う、「ハングリーで、バカな」企業や個人だけが、新しい時代を担う資格を持つだろう。

*1:現在は Windows Phone