プロジェクト・マネジャーが知るべき97のこと

プロジェクト・マネジャーが知るべき97

プロジェクト・マネジャーが知るべき97のこと」(原題: 97 Things Every Project Manager Should Know)。
本書は世界で活躍されているプロジェクト・マネージメントのプロ達が寄稿したプロジェクト・マネージメントの英知が集められています。オライリーから出版されているということで、ここでいうプロジェクトはソフトウェアのプロジェクトを指していますが、もちろん他の業種のプロジェクトにもヒントになることが少なくないと思います。
構成は見開きで2ページに1つの Tips が述べられているので、私のようにたまに電車通勤で読む場合でも話の続きなどを気にすることなく読み進めることができるのもいいですね。
オリジナルの英語版は 97 のことが書かれているのですが、日本語版の本書はそれに加えて、最後に11の Tips が日本人により追加されているので、実際は「プロジェクト・マネージャーが知るべき108のこと」なのでちょっぴりお得ですね。

すばらしいソフトウエアというのは複雑さを吸収してシンプルなものを提供します。プロジェクト・マネージャーも同じようにものごとが複雑になりすぎないようにするのが重要だそうです。ものごとを複雑にしていくのは簡単だけど、そうならないようにするのって意外と大変だなという経験は誰しもあるはず。
新しい人材を雇うときに、その人が現時点持っているスキルが要件に合致しているかどうかだけで人材を選択しているのであれば、それは「あなたに投資するつもりはありませんよ」と言っているようなもの。スキルではなく素質で雇うことというのは言われてみればなるほどその通り。裏を返せば、未経験の分野にチャレンジすることを恐れないでと言われたような気がしました。
チームにデベロッパーがいるときはデベロッパーの特性を十分に理解する必要があるでしょう。集中する時間をとることの大切さ、割り込みがあったときはその時間だけでなく、復帰するまでを含めてのロス時間を理解すること、不必要なミーティングなど、色々とありそうです。
プロジェクトチームの人間関係にまつわる問題を業務遂行に対する障害だと考えるのではなく、それもプロジェクト・マネージャーのスコープであり、それことが仕事の核心だと考えを持つと仕事は順調に進むらしいです。耳が痛い... (^^;
ユーザーのニーズを理解することを大事にする開発チームをつくること。ありとあらゆるテクノロジーを投入する前に、顧客がうまく扱えるかを考えましょう。まったくその通りです。
設計段階で事前に合意されていたとしても、要求は開発中に変化するもの、前もってすべてを知ることは不可能だということを受け入れましょう。スパイラルやアジャイルは特にそうです。どの地点でも通過点に過ぎず完全ではないということを、無知を受け入れましょう。私の場合は、無知なのでそこはうまくできるかもしれません。;-)
プロジェクト・マネージャーはメンバー間の最適なコラボレーションを保証するファシリテーターになりましょう。そうすれば、マラソンを走れるようなチームを作ることができるそうです。
プロジェクトスコープ記述書の重要性を軽視するのは特に日本人に多い傾向があるけど、最近はそうでもなくなってきたかな。
「アリスはもうここにはいない」という面白いタイトルの章ではインターナショナルなプロジェクトにおける配慮が記されています。
欧米のチームと一緒に作業すると、彼らのドキュメント作成能力の高さに脱帽する。しかし、計画の策定とドキュメントの完成だけに注力すると、進捗や成果を錯覚してしまいます。(彼らがそうだという意味では決してありません) ドキュメントは手段であり目的ではない、ということは忘れてはならないことだと再認識しました。
ソフトウエア開発ほどスコープが変動する業界はなかなかない。プロジェクトのスコープは変更していくものだということに慣れることは大切ですね。
7 Habits にもありますが、「重要で緊急であること」と「重要だが緊急でないこと」に対してどうすべきかを改めて思い起こされました。そういえば前者と後者の真の重要性を最近少しはき違えてしまっていたかも知れません。
すぐれたプロジェクト・マネージャーになるには、どんなテクニックがあるのかということについても簡潔に書かれています。ここはネタばれになるので、ぜひ本書を読んで見てください。ミーティングの手法についても同様に簡潔に説明されています。すべてその通りに実践する必要はないけど、知っていて損はないことはそれなりにあると思います。
それから、ビジョンを共有することの重要性。私の会社では会社のトップ或いはリーダーシップチームのレベルでは、これはとてもしっかりなされています。では、これがワークグループ、例えば同部署のアジアチームといったレベルになると、なかなかうまく実践されているところは少ないのではないでしょうか。最小単位の組織レベルはこれといった解がないかもしれませんが、ある程度の規模の組織ではやはり必要な気がします。実際は、難しいですけどね。
人はお客様や他人のためにがんばることが仕事の強い動機付けになるけど、自分に対する約束はないがしろにしてしまいがち。これってまさに自分にもどんぴしゃと当てはまるので大いに反省。
「正しい判断」にこだわるな。「誤った判断をしない」というように考え方を切り替えましょう、という言葉は今後とても役に立ちそうな教えになる予感がします。また、「しなければならないこと」と「できること」をきちんと判断できるプロジェクト・マネージャーになることが成功への秘訣かもしれません。
暗黙知に頼らずに形式知に落として情報共有するというのは日本人が従来あまり得意ではなかったけど、今後は必要になるでしょうね。もちろんドキュメント化は目的ではありませんけどね。

「今」というのは「もうすぐ」よりも何百万倍もよく、「後で」よりも、何億倍もよい。
早く成功することは遅く成功するよりも百倍よいことにすぎませんが、早く失敗することは遅く失敗するよりも百万倍もよい。

踏み込めば権限が付いてくるとはどういうことなのか、プロジェクトで大切なことの4点とは何か等々、ためになるお話があって、かつ後でも参照しやすい構成なので後日読み返すときもいいですね。電子書籍*1されて検索できると尚可。
プロジェクト・マネージメントに携わる人やそういう人が身近にいる人は、読んでみると面白い一冊だと思います。

*1:オライリー独自のではなく