マネジメント - 基本と原則

マネジメント

マネジメント - 基本と原則 [エッセンシャル版]」(P.F.ドラッカー著、上田惇生編訳)。原題は、"Management: Tasks, Reponsibilities, Practices"。
2010年は「もしドラ*1がベストセラーになりましたが、私は「もしドラ」ところか恥ずかしながらその原点となった P.F.ドラッカーの「マネジメント」すら読んでいませんでした。それならば「もしドラ」の前に本物を先に読んでおくかというのがきっかけ。
初版は約35年前だが、古さはまったく感じません。それはきっと基本と原則を示すもので不変だということなのでしょう。
マネジメントの使命については、次の序章から始まる。

組織は、目的ではなく手段である。問題は、「その組織は何か」ではない。「その組織は何をなすべきか。機能は何か」である。

企業とは何か。企業=営利組織ではないと提示からぐいぐいと引き込まれていきます。企業の目的、マーケティングはどこからスタートするか、イノベーションとは何を生み出すものかなど非常に興味深い内容をわかり易く論じています。経営者やマネージメントに直接関わる人だけでなく、あらゆる人にお勧めできる一冊だと思います。
イノベーションは発明ではなく、経済に関わることだというのも新鮮です。第1章は特に好きかも。
マーケティングの理想は、セールスを不要にすること。それはそうだ。顧客を理解し製品とサービスが顧客のニーズに合致すればおのずから売れるというわけだ。
目標設定に必要なバランスを読んでいると自分の目標設定のバランスの悪さが浮き彫りになる。「目標は、実行に移さなければ目標ではない。夢にすぎない。」耳が痛い...
戦略計画とは何かと戦略計画ではないものを知るのも大切。
「マネジャーの仕事」では、"マネージャーの仕事は何か"を解説している。例えば、マネジメントはマネージャーが専念しなければならないほどの仕事ではない、マネージャーは調整者ではなくプレーイング・マネージャーでなければならない、報酬をポストで補ってはならない等々。この辺りはマネージメントに直接携わる人、もしくはこれから携わる人は知っておくと良い情報がてんこ盛りです。
自己管理による目標管理については、幸い私が勤める会社はかなりいい線いっている気がする。でもここで書かれていることを理解して初めて今まで目標管理で指導されてきたことの意味の理解が深まったのも事実。(当たり前だけど)その道のプロフェッショナルが考えて作り出したプロセスは我々の想像を遙かに上回る程しっかり練られているということなのでしょう。

組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。天才に頼ることはできない。天才はまれである。あてにできない。

凡人の私には勇気づけられる言葉ですね。インパクトのある表現ですが、要するに組織の焦点は成果に合わせなければならないとうことです。
以下はマネージャー失格とすべき定義の抜粋。これはマネージャーである人もそうでない人にも意識しておく必要があることで、自分自身への反省も含めて謙虚に受け止めたいと思います。

  1. 強みよりも弱みに目を向ける者をマネジャーに任命してはならない。
  2. 何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者をマネジャーに任命してはならない。
  3. 真摯さよりも、頭の良さを重視するものをマネジャーに任命してはならない。
  4. 部下に脅威を感じる者を昇進させてはならない。

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意思決定の章は、日本流の意思決定のエッセンスについての解説もあります。これは決して否定的なものではありません。むしろ肯定的で、これも興味深く読めますね。また、真の管理とは何かという問いに対する解説も説得力があります。
ここで書かれていることがすべて正しいかどうかなんてことは私にはわかりませんが、意思決定の原理を理解したあとに実際にいくつかの企業を当てはめてみると、良くも悪くも面白い結果が見えてくるかもしれません。
コングロマリットのマネジメントの限界については私自身は少し他人事ですが、自分の狭い世界に照らし合わせてみると参考になることもなくはない。
分離の解説でこんな諺があるのを初めて知りました。「娘の相手を探すときは誰がよい夫になるかを考えるな。誰の良い妻になるかを考えよ。」娘を持つ父としては他人事ではない(?)w
イノベーションの章は学ぶべき点がとても多いです。

市場ではなく製品に焦点を合わせたイノベーションの成果は失望すべきものとなる。
顧客のニーズから出発することこそ、明日の科学、知識、技術の姿を明確にし、発明発見のための体系的な活動を組織するうえで、もっとも直截な道となる。

マネジメントの上下巻は私にはちょっとヘビーだけど、このエッセンシャル版(単行本で300頁程度)ならそれほど構えなくてもいいサイズですね。読んでおいて損はない一冊だということを今更ながら認識しました。

*1:「もし高校野球の女子マネージャがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」