アイツがやって来た

夕方5時、約束通り「アイツ」がやってきた。私にオートバイでぶつかってきた張本人です。31歳、オートバイは 250cc だった。やはりブレーキをかける前に私に衝突してしまったようだ。
一通り詫びをするとうつむいて黙ってしまった。まぁ、そうだろうな。すみません以外殆ど何も言うことはできないんだろうな...
仕方がないので私の方から少しずつ話を始めた。もちろん、ぶん殴ってボロカス言ってやろうかとも思いました。相手の態度によってはそうしていたかも知れません。でもそれは思いとどまった。
自分と相手が座っているテーブルの様子を一段高いところから見たらどんな風に映るだろうと考えた。私が罵倒している姿は、望ましい姿なのだろうかと。
ここでいくら相手を責めたところで、怪我で失われたものが戻ってくるわけでもないし、何も解決しやしない。将来、自分が逆の立場(事故の加害者)になる可能性だってある。
アイツも事故を起こしてから、ずっと責任を感じ続けていた(そう信じたい)だろうし、今日病院に来るときも帰る時も、思い気持と足どりに違いない。そんな相手をののしるようなことをしても、一時的にはすっきりするかも知れないけど、何も変わりはしないと思う。
そうは言っても、全面的に許すとかそういったことでは決してないので、落ち着いた口調で、でもしっかりと言いたいことを伝えた。
あれからどれほどつらい生活を強いられているか、どれほどの人に心配や迷惑をかけているか、家族旅行を含む大切な思い出作りがすべて台無しになったこと、仕事に関しての影響と収入へのインパクト、夏から秋は車いすと松葉杖の生活になること、弁償してもらいたいこと、今後の対応とお願い等々。
帰り際にまたお見舞いに来てもいいかと聞かれ、ちょっとびっくりした。きっと来るのも嫌だと思うのにそう言ったことに関しては、彼のまともさを感じた。
ちなみに彼はもうオートバイは乗らないことに決めたそうです。