毎秒が生きるチャンス!〜ランス・アームストロング

Blackcomb2008-06-22

毎秒が生きるチャンス!」(Lance Armstrong 著、曽田和子訳)。
原題は、”Every Second Counts”。著者の Lance Armstrong は、癌克服後に世界3大スポーツであるツール・ド・フランス前人未到の7連連続優勝を達成したアメリカ人の自転車ロードレーサーです。
本書は、癌を克服してから 2003年のツール・ド・フランスで5連覇を達成した時期までのランス・アームストロングの心の内がたっぷりと記されています。この本は同僚から借りて読んだのですが、正直読む前まではロードレースの凄さや楽しさに関する話を期待していたのですが、実際の内容は(著者に失礼かもしれませんが)想像を遥かに上回るもので、ロードレースの過酷さや素晴らしさもさることながら、もっと癌というものを中心に据えた心にずしっとくる素晴らしい内容でした。
ランスが癌克服後にいかに数多くの癌患者にエールを送り続けていたか、それによりどれほどの人々が勇気づけられたか、ランス・アームストロング基金(LAF: Lance Armstrong Foundation) の意義、支えてくれた友人・家族・チームメイト等々、自転車とは少し離れた位置での話が本書をよりよい読み物にしていると言えるでしょう。
長期にわたりドーピング疑惑をかけ続けられ、何度検査をやってもクリーンだったにも関わらず、疑惑が晴れなかった。検査結果から何も反応が出ないのがおかしい、出るはずだ。だからシロとは断定できない、というとんでもない敵とも戦い続けた話は悲惨でした。裏を返せば、それほど凄い選手だったという証しでしょう。
サリー・リードという、やはり癌を克服した友人の言葉がすごく印象的だった。

家は焼け落ちてしまったけれど、空はよく見えるようになった。

昨今のブームに乗っかった訳ではありませんが、私もヒルクライムが好きです。だから下記の言葉はツールでの山岳区間の重要性を端的に言い表していて好きです。

フランス人に言わせれば、山こそは「自転車乗りの神髄であり、悲劇の神髄でもある」という。ほんとうの意味での差はここからついてくる。

2003年のツール・ド・フランスは、彼にとっても非常に苦しいレースであり、ウルリッヒとの激戦はビデオ(これです!)でも見たことがあるので、いくつかの有名なシーンが、いったいどんなことを考えながら走っていたのかを本人の言葉で書かれているところが目茶苦茶おもしろく、映像をイメージしながら読むとかなり引き込まれてしまいます。(^^)
癌の化学治療は相当につらいもののようで、それに比べれば最も過酷というわれるツール・ド・フランスでさえまだましに思えてくるというのは、個人的に心に響きました。これは以前にもここで少し書いたのですが、この本を読んで、私は恐れ多くもランスの癌克服とロードレースというものを、自分の去年の痛くて痛くてとても辛かった入院とヒルクライムのレースに重ね合わせてしまいました。そして、レース中は自分を鼓舞させて「あの時のつらさに比べれば…」と言い聞かせ、自分に負けないように力を振り絞りました。まぁ、心の中でランスの体験と自分のものを勝手に重ね合わせるのは自由なんでどうかお許しを。(^^;
以下抜粋:

  • どんなレースでも、ほんとうの敵に出会い、その正体に気づく時が来る。敵とは自分自身なのだと。
  • 苦しい思いはいい人生に欠かせないものであり、喜びと同じくらい人生から切り離せないものだ
  • 敗北は、本人の人となりをはっきりと明かしてしまう。たとえば、負けたことを他人のせいにするか、あるいは自分の責任だと思うか、がわかる。
  • 人と協力して仕事をすれば、互いに責任ができ、したがって自分の仕事を放り出したり、仲間を裏切ったりすることはできにくくなる。それによって仕事の質が向上するだけでなく、自分も元気づけられ慰められる。
  • 健康な人にも病に苦しむ人にも、アスリートにもそうでない人にも、誰に対しても役立つその教訓とは、個人的な慰めや快適さだけが追い求める価値のあるものではない、ということだ。

ちなみに彼は Nike と契約しているのでが、ランスの10//2 というブランド(?) のウエアのタグにはこう書かれています。

“October 2nd, 1996. The day it all changed. The day I started to never take anything for granted. The day I learned to take charge of my life. It was the day I was diagnosed with cancer”
Lance Armstrong