イノベーションの神話

イノベーションの神話

イノベーションの神話」(Scott Berkun 著、村上雅章訳)。
原題は、"the myths of innovation"。「アート・オブ・プロジェクト・マネージメント」に続く Scott Berkun のオライリー本です。イノベーションの歴史とその裏側に隠れた事実、イノベーションはどうやって生まれるか或いはどうやって潰されるか、アイデアの発見とその評価などあらゆる角度からイノベーションを考察しています。
イノベーターたちは必ず、幸運やチャンス、先駆者の払った犠牲を認めているとある。不確実性に対峙する勇気と失敗にくじけない意志を持った人たちから習うべきことはすごく多い。イノベーションについて書かれた他の本と同様に本書でも、本当に「新しい」アイデアなどほとんどあり得なく、既存のアイデアの発展、組み合わせ、再利用だと述べられている。これはまさにそうなのだが、アイデアイノベーションとなるには、それが成功しなくてはならなく、言い換えればそれに誰もお金を払わないようであれば機が熟していないということなのかもしれません。
イノベーターが耳にする否定的なセリフとして以下のような批判が紹介されています。

  • そんなことなどうまくいくはずがない
  • 誰もそんなものは欲しがらない
  • 実際に役に立つはずがない
  • 人々は理解しないだろう
  • そんなことは問題ではない
  • それは問題だが、誰も気にしていない
  • それは問題で、人々も気にしているかもしれないが、すでに解決されている
  • それは問題で、人々も気にしているかもしれないが、ビジネスにはならない
  • それは問題を探すための解決策だ
  • 私のオフィス/洞窟から今すぐ出て行け

人が何かアイデアを出すと、それが生きがいなのか条件反射なのかは不明だが、すぐさま否定・批難したがる人がいるものでそういった経験をしている人は少なくないはずだ。そういったアイデアを殺すセリフ(一部抜粋)がこちら。

  • そんなことはもうすでに試してみた
  • ここではそんな風にしない
  • そんなことはうまくいくはずがない
  • そんな予算はない
  • そんな時間はない
  • そんなことは上長が承認しない
  • そんなものは採算がとれない

比較的大きな企業の場合、イノベーターの存在だけではなく、彼らのマネージャの援護射撃(または保護)も重要になってきます。ここではアップルや東芝の例が引用されています。また、イノベーションの普及速度を決定する5つのファクターも興味深い。それぞれの詳細は本書を一読してほしい。

  1. 相対的なメリット
  2. 互換性
  3. 複雑さ
  4. 試用可能性
  5. 観測可能性

イノベーションのスイートスポットというものがあるらしく、優秀さと容易さが絶妙なバランスになったときに成功する確率が高いそうだ。
比較的薄い本にも関わらず情報量がすごく多く感じるのは、引用を多用しているせいだろうか。内容としては、参考になる情報が多いのでお勧めなのだが、読み物としては引き込まれるような「何か」が(個人的には)欠けている気がしたのが残念な点です。